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私達は双子だった。麻が一時早くこの世に生を受けた。後に生まれた私は弥生と名付けられた。一卵性双生児で、二人ともとてもよく似ていた。とても、とても。
両親は別々に、二人の個性とやらを尊重する育て方をしたかったらしい。親戚達がこぞって送ってくれる『双子用』の服やおもちゃや学習用具などは大切に保管はしていたものの使うことを強要することはなかった。必ず一人ごとにどれがいいのか選択肢を用意してくれていた。
麻は明るい子で、私は少しばかり暗い子だった。それ以外は好きなものも嫌いなものも、背丈も走る速さも同じだった。しかしそれが一番の違いだった。決定的な、違いだった。
小学生に入るころだった。私達の家は親戚付き合いが多く、年の瀬には大きな宴会を開いて集まることが慣習になっていた。その年もいつものように歳の近い従兄弟たちと遊べることを楽しみにしていた。大人達が酒に酔いしれている間、トランプゲームをするのもいつも通りだ。そのまま遊んでいれば紅白は終わり、除夜の鐘が鳴り、自分たちは新年の挨拶とともにお年玉がもらえる。だから、そのまま子ども達のためにあてがわれた部屋から動かなければよかったのだ。いや、そこは問題ではない。便所といって抜け出しても、用を足したら真っ直ぐに部屋に戻ればよかったのだ。
「まさか二人も腹の中にいるとは思わなかったよ~!」
この時間はもう皆酒が回っていて声なんて廊下の端から端まで響いている。もっとも子どもは子どもで盛り上がっていたので、ここまで響いていることに全く気付かなかったが。
自分達のことを話している。これを聞き逃すことができるほど、私の好奇心は弱くなかった。そして、近づいてしまった。耳を澄ましてしまった。
「一人分の名前しか用意してなかったからさぁ~。まいったねぇ、ありゃあー。しかたないから、急きょ生まれた月で弥生だろ!いやー三月でよかったよな~。何々月って『月』が入ってるのも面倒だけどよお。師走だったら洒落にならねえからな!」
身が、凍る気がした。
耳から音が零れ落ちてはまた舞い戻ってくる。
とにかく部屋に戻らなければ、ここに居たら、ここに、居たら…、
「弥生?そんなとこで何してんの?」
母がいた。その時自分がどんな顔をしていたかなんて、考えたくなかった。
「お父さんお酒に弱いのにたくさん飲むもんだから、今外で涼んでたとこなのよ。どうしたの?お腹空いたなら何か取ってきてあげようか?」
そういって宴会をしている部屋の障子を開けようとした。
「いらない!」
そういって子ども部屋にもどる。麻のもとへもどる。自分の一部へ、もどる。
「どうした?早く大富豪の続きやろうよ」
それから私は変わった。単純だとは、自分でも思う。たかだか酒の場での、両親以外の人が言った、戯言ではある。でも、だからと言って、あっさりと忘れることなんて出来なかった。名付け親が誰か、理由が何かも問いただすことはなかった。
それからの私は麻になりたいと願った。自分は麻の一部だと思った。ずっと似ていれば、やがて一つに戻れると思った。何をするにも麻と一緒だった。それを麻は拒まなかった。一緒にいてくれた。私が麻の真似をすることを許容してくれていた。
他人にはわからないことでも、やはり両親というものは偉大で、私が麻の真似をしていることは感づかれていたようだ。しかし、それもまた私の選択ということで否定することはなかった。
中学、高校と進み、大学受験で二人は分かたれた。私が受験を失敗したのだ。学力は同じ。理由は麻が受かった大学だけ私は風邪で寝込んでしまっていた。他にも私が受けた所でも二つばかり受かっていたが、どれもその大学よりランクが低かった。
私が浪人するかどうかを迷っていると、麻はいきなり髪を染めて帰ってきた。「大学デビューってやつ」とかいっていたけれど、真っ黄色の頭は私との違いをまざまざと見せつけていた。
もう、二人になろう。
そう、訴えかけていた。
私はひとまず浪人することにした。自分の行きたい大学を見つけたい。というなんとも甘い頼みごとに、両親は快諾してくれた。
予備校代は払いたいからとバイトを始めた。麻は入学の準備を始めた。徐々に二人の時間は減っていき、一人でいることが多くなった。ようやく自分は『弥生』になれるのだと思った。
そう思っていた。
「弥生さん!麻さんが交通事故に遭ったって…!バイトはいいから早く病院行きなさい!」
あの日、確か雨が降っていた。
両親は別々に、二人の個性とやらを尊重する育て方をしたかったらしい。親戚達がこぞって送ってくれる『双子用』の服やおもちゃや学習用具などは大切に保管はしていたものの使うことを強要することはなかった。必ず一人ごとにどれがいいのか選択肢を用意してくれていた。
麻は明るい子で、私は少しばかり暗い子だった。それ以外は好きなものも嫌いなものも、背丈も走る速さも同じだった。しかしそれが一番の違いだった。決定的な、違いだった。
小学生に入るころだった。私達の家は親戚付き合いが多く、年の瀬には大きな宴会を開いて集まることが慣習になっていた。その年もいつものように歳の近い従兄弟たちと遊べることを楽しみにしていた。大人達が酒に酔いしれている間、トランプゲームをするのもいつも通りだ。そのまま遊んでいれば紅白は終わり、除夜の鐘が鳴り、自分たちは新年の挨拶とともにお年玉がもらえる。だから、そのまま子ども達のためにあてがわれた部屋から動かなければよかったのだ。いや、そこは問題ではない。便所といって抜け出しても、用を足したら真っ直ぐに部屋に戻ればよかったのだ。
「まさか二人も腹の中にいるとは思わなかったよ~!」
この時間はもう皆酒が回っていて声なんて廊下の端から端まで響いている。もっとも子どもは子どもで盛り上がっていたので、ここまで響いていることに全く気付かなかったが。
自分達のことを話している。これを聞き逃すことができるほど、私の好奇心は弱くなかった。そして、近づいてしまった。耳を澄ましてしまった。
「一人分の名前しか用意してなかったからさぁ~。まいったねぇ、ありゃあー。しかたないから、急きょ生まれた月で弥生だろ!いやー三月でよかったよな~。何々月って『月』が入ってるのも面倒だけどよお。師走だったら洒落にならねえからな!」
身が、凍る気がした。
耳から音が零れ落ちてはまた舞い戻ってくる。
とにかく部屋に戻らなければ、ここに居たら、ここに、居たら…、
「弥生?そんなとこで何してんの?」
母がいた。その時自分がどんな顔をしていたかなんて、考えたくなかった。
「お父さんお酒に弱いのにたくさん飲むもんだから、今外で涼んでたとこなのよ。どうしたの?お腹空いたなら何か取ってきてあげようか?」
そういって宴会をしている部屋の障子を開けようとした。
「いらない!」
そういって子ども部屋にもどる。麻のもとへもどる。自分の一部へ、もどる。
「どうした?早く大富豪の続きやろうよ」
それから私は変わった。単純だとは、自分でも思う。たかだか酒の場での、両親以外の人が言った、戯言ではある。でも、だからと言って、あっさりと忘れることなんて出来なかった。名付け親が誰か、理由が何かも問いただすことはなかった。
それからの私は麻になりたいと願った。自分は麻の一部だと思った。ずっと似ていれば、やがて一つに戻れると思った。何をするにも麻と一緒だった。それを麻は拒まなかった。一緒にいてくれた。私が麻の真似をすることを許容してくれていた。
他人にはわからないことでも、やはり両親というものは偉大で、私が麻の真似をしていることは感づかれていたようだ。しかし、それもまた私の選択ということで否定することはなかった。
中学、高校と進み、大学受験で二人は分かたれた。私が受験を失敗したのだ。学力は同じ。理由は麻が受かった大学だけ私は風邪で寝込んでしまっていた。他にも私が受けた所でも二つばかり受かっていたが、どれもその大学よりランクが低かった。
私が浪人するかどうかを迷っていると、麻はいきなり髪を染めて帰ってきた。「大学デビューってやつ」とかいっていたけれど、真っ黄色の頭は私との違いをまざまざと見せつけていた。
もう、二人になろう。
そう、訴えかけていた。
私はひとまず浪人することにした。自分の行きたい大学を見つけたい。というなんとも甘い頼みごとに、両親は快諾してくれた。
予備校代は払いたいからとバイトを始めた。麻は入学の準備を始めた。徐々に二人の時間は減っていき、一人でいることが多くなった。ようやく自分は『弥生』になれるのだと思った。
そう思っていた。
「弥生さん!麻さんが交通事故に遭ったって…!バイトはいいから早く病院行きなさい!」
あの日、確か雨が降っていた。
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