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機械と宵闇のワルツ9
2011.05.01 Sun 20:38
あと3回くらいで終わらせたい

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夕暮れ時。
といってもこの頃は随分と日が落ちるのが遅くなっているので、時刻で言えば十分夜である。
今日はやけに西の空が赤い。
橙だとか、茜だとかではなく赤が広がる空を、
私は綺麗だと思いながら頭の片隅ではこれが何かの予兆ではないことを祈っていた。


――30分程前。
「今日の夜はシアンと一緒にパトロールしてもらうから」
と左藤にいきなり言われた。いや、左藤の場合はいつもいきなりなのだが。
「嫌ですよ。今日はもう帰らせてもらいます」
ガタッという音をたて、椅子から立ち上がる。
いつの間にか研究所の一員のように扱われているが、そもそもが無関係だ。
あらかた状況は聞いたし、さっさと帰るに限る。そういえば自分の荷物はどこにあるのだろうか。
うろうろ視線を漂わせていると、
「家が安全だとでも思っているのか」
ドアの前に立っていたシアンが言った。
「そりゃこんなわけのわからない所よりよっぽど。ここのセキュリティに殺される前に帰りたいって」
「…お前、何か忘れてないか」
「だから、今荷物を探して」
「違う。」
シアンの言葉の温度が下がった。心なしか視線も鋭い。
「昨日遭ったモノに対してお前の家は安全なのか」
「な…。だってそれこそあれは君が退治したでしょう?」
「昨日のは威嚇だ。一時的に姿をくらませたに過ぎない。あれの狙いはお前だ。一度見つかった以上すぐに食らいに来るさ」
「なんでそんなことわかるんですか」
「さあな。だがお前だって何となくは感じるだろ」
「………」
何となく所ではない。
あの時、アレが私と目があった瞬間(その時点ではまだ目は無かったが、)
影から立体へと変化を遂げた。そして食べられそうになったとき、アレは何かを語りかけていた。
小さすぎて私には聞き取ることができなかったけど。
ただ信じられないだけで、アレは私を狙っているという意識はあった。

それはもはや本能と言ってもよかった。


そして今にいたる。
聞けば毎日シアンは研究所から半径3Kmの範囲を見回っているらしい。
半年の間にヤツとの遭遇は5回。いずれもマゼンタが追い付けず映像はなく、シアンの証言のみ。
その間左藤はシアンにしか見えない幻覚のようなものを疑っていたそうだ。
それを聞いて私は少し安心した。
幽霊だなんだと言ってはいたが、きちんと疑うこともできていたのだと。

「で、遭遇した時はいつもあんな風にバチバチしてるの?」
「見えるだけでアレには触れることはできない。だから放電しているだけだ。今でも対処法はわからない」
「えっ」
「とりあえず今日回るルートを教えておくから…」
「ねぇじゃあ私がついていくのは危なくないかい?この前もたまたま助かっただけってことでしょう?」

不安って大きさで比較できるかわからないのだが、
ともかく今の私の不安はどうしようもなく膨らんでいって、
自分の中に収まらないくらいになっていた。
「たまたまだろうが助かっただろ。なんにせよお前が何らかの影響を与えている可能性は高い。倒す手掛かりを掴めるかもしれないだろ」
「そういう問題じゃなくて…」

それ以上の抵抗は必要なかった。また、膨らみきった不安も急激にしぼんでしまった。
なぜなら、不安というのは実際に物事が起きていないときに起きる心理であり、
今目の前には例の黒い影が表れていたからだ。

「・・・・・・・・!」
ヒィッとでも叫びたかったが、喉の奥がつっかえて声がでない。
不安のかわりに危機感が一気に体を埋め尽くし、
そのせいで体が動かないとはもう本末転倒もいいところだ。

 そんな私の状態などお構いなく、影はどんどん実体化していく。
 球形になりそこで終わりかと思いきや、今回はまだまだ膨れ上がっていく。
 ポタッ。
 汗が落ちる。息が上がる。前回の時もそうだったが、コレを本能が拒否していることが良くわかる。
 黒色は十分に広がり、人型になっていった。
とはいえども、マネキンのような完全に人を模した形にまではならず、着ぐるみのようななんとも荒削りな形である。
「・・・い」
なにか声を発した。小さすぎて聞き取れない。
何かを呟きながらこちらに近づいてくる。
距離は一〇メートルほど。
その距離を一歩一歩縮めてくる。

「…?聞き取れないな」
シアンは集音レベルを上げた。
そもそもコイツが普通の物理現象で音を発しているのかも謎だったが。
 近づくか。
離れるか。
選択しなければならないのに動けない。
今までとは何かが違う。
喋ったこともそうだが、明確な意思のようなものを感じた。

「・・・よ・・・・・・い」

相変わらず何を言っているのかは不明瞭なままだ。

「アサ…?」

 つぶやいたのは私自身だった。

シアンは理解できずながめている。私は歩き出した。
「おいっ」
制止の言葉も聞かず、ふらふらと歩みを進めていく。
影と同じ速度で。かがみ合わせのように。
お互いが向き合った所で、影の方が手を差し出した。
アサもゆっくりと手を出そうとする。あと少しで触れ合う瞬間、影が笑った。


 ふわっと体が浮いた。と思ったらシアンが私を持ち上げていた。
「何やってるんだ!距離を取るぞ」
そういってすぐさま走り出す。
「にげるん・・・だね」
今度ははっきりとした言葉で聞こえた。そして、その声を私は知っていた。
「駄目だよ。下ろして」
「は?脇に抱えてるのが嫌だとかいう文句は受け付けないから・・」
「そうじゃなくて!」
いきなり声を張り上げたせいで、シアンは止まった。というより、
「おいつ・・・いた」
 追いつかれていた。さらには口もできていた。
「いっしょに・・・やよい」
「うるさい」
シアンが影を掴もうとした。
 上に飛びあがって逃げられる。
 空中でのつかの間の攻防。
 着地した時に私は影に捕まっていた。
「え」
「じっとしてろ!」
私を捕まえたことで動きを止めた影をシアンがとらえる。
「えっいやでもこのまま放電するのはまずいってっ」
シアンは力技で私を影からひきはがし(というか放り投げられた)、即座に攻撃した。
 バリバリバリババリバリバリバリバリバリバリバリバリババリ!
「ぐへっ」
 私が地面に叩きつけられる頃にはもう影は失せていた
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