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球体だった靄から腕が生え、ぐんとこちらに伸びてきた。
本体の位置は変わらずに、腕だけは先ほどまで座っていたベンチの所まで伸びている。
「ひぃっ」
思わず声を上げてしまった。それに反応してか、今度は腕を縮めて本体が移動してきた。
もう相手の動きを見ている場合ではない。
ようやくそのことに気付いた私は、向きを変え走り出した。ブランコの横を通り過ぎ、公園を飛び出て、すぐに坂を下る。
突き当り、曲がる。
突き当り、曲がる。
もと来た道などとうに無視してひたすら走る。
一瞬振り返ってみた。
いない。
振り切ったのだろうか。まだ足を止めはしなかったが、気が抜けて速度が少しすつ落ちていく。
その間ずっと後ろを向いていたが、黒いお化け―取り敢えずはそういうことにしておく―の姿は見えなかった。「ふぅ」とため息をついた。その時。
肩に手がのせられた。
体中が凍りついたように動かないというのに、なぜか首だけは動き、予想していたものを見上げた。
口が。
口ということも恐ろしく、それを認めてしまえば自分が食われることを認めるだけなのだが、やはりそれは紛れもなく口だった。パカッと球体が半分に割れるかと思えるような、私など一口で飲みこまれてしまうに違いない大きさ。
それがゆっくりと近づいてくる。先ほどまでの逃走が嘘のように、世界は静まり返っていた。
何も音はしなかった。
ただ、街灯に照らされ浮かび上がる黒色だけが視界を埋め尽くして。そして。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ。
突然雷のような激しい光と轟音が沸き起こり、私は後方へ吹き飛ばされ、頭を打った。
鈍い痛みの中、体を起しかけると、そこには黒い姿はもうなかった。
かわりに、何かが倒れていた。
本体の位置は変わらずに、腕だけは先ほどまで座っていたベンチの所まで伸びている。
「ひぃっ」
思わず声を上げてしまった。それに反応してか、今度は腕を縮めて本体が移動してきた。
もう相手の動きを見ている場合ではない。
ようやくそのことに気付いた私は、向きを変え走り出した。ブランコの横を通り過ぎ、公園を飛び出て、すぐに坂を下る。
突き当り、曲がる。
突き当り、曲がる。
もと来た道などとうに無視してひたすら走る。
一瞬振り返ってみた。
いない。
振り切ったのだろうか。まだ足を止めはしなかったが、気が抜けて速度が少しすつ落ちていく。
その間ずっと後ろを向いていたが、黒いお化け―取り敢えずはそういうことにしておく―の姿は見えなかった。「ふぅ」とため息をついた。その時。
肩に手がのせられた。
体中が凍りついたように動かないというのに、なぜか首だけは動き、予想していたものを見上げた。
口が。
口ということも恐ろしく、それを認めてしまえば自分が食われることを認めるだけなのだが、やはりそれは紛れもなく口だった。パカッと球体が半分に割れるかと思えるような、私など一口で飲みこまれてしまうに違いない大きさ。
それがゆっくりと近づいてくる。先ほどまでの逃走が嘘のように、世界は静まり返っていた。
何も音はしなかった。
ただ、街灯に照らされ浮かび上がる黒色だけが視界を埋め尽くして。そして。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ。
突然雷のような激しい光と轟音が沸き起こり、私は後方へ吹き飛ばされ、頭を打った。
鈍い痛みの中、体を起しかけると、そこには黒い姿はもうなかった。
かわりに、何かが倒れていた。
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